川柳の上達法 ㉚ 川柳の風刺力

 

  1、風刺(諷刺)とは

        「中国最古の詩集『詩経』の〈大序〉にあることば、上似風化下 上ハ風ヲ以テ下ヲ化シ

       下似諷刺上 下ハ風ヲ以テ上ヲ刺ス

        に原典を持ち、詩における作者の目の位置をいったもの。〈風刺〉の場合は、下から上に向かう

        批評を含んだ視線で捉えられ、時事川柳の基本的スタンスでもある。  

           役人の子ハにぎにぎを能覚  樽初―6

        などは、風刺の利いた句と紹介されることが多いが、この前句は『うんのよい事うんのよい事』

        であり、やっかみ半分の冷やかしの眼はあっても、贈収賄が日常化した背景でのお上へ向けた

        批判ではない。(中略)新興川柳の鶴彬にとって、川柳は攻撃的な武器になった。風刺は常に、

        今ある体制に批判の視線を置くから、体制は変わっても弾圧を受けることに変わりはなかった。 

       時事川柳の本格的な開花で、風刺の眼が真に自由を得たと思われる第二次大戦後の今日も、

       公共的な出版や新聞の自主規制には、なお限界を感じさせる一面がある。

           べんとうの無い児も君が代を歌ってゐる   高木夢二郎

 

         昭和史という冗談が永すぎる           普川素床  

                                            (『川柳総合辞典』より引用)

 

2、風刺文学

      「川柳を風刺文学だと言う人もいる。それだけ川柳の持つ風刺性は、歴史的にも現代的にも大き

      な要素を秘めている。そして読者に与える影響も大きかったと言えよう。短い十七音字から放つ

      言葉は、あるときは社会を批判し、またあるときは権力へ立ち向かっていく。そこに川柳の魅力が

      あり、庶民の代弁者として拍手を浴びる要素がある。

      政治の現実、世の中の風潮などに対して加える批判的・攻撃的あてこすり。風刺文学とは、人間

      社会に見出されるさまざまな矛盾を皮肉と機智によってとり扱う種類の文学をいう」

                                         (原田義人『世界大百科事典』平凡社刊)

     「風刺とは、悪徳、愚かさ、悪習慣というような、すべての種類にわたる悪を告発したり、暴露したり、

      あざけったりするために、皮肉やアイロニーや嘲笑などを駆使して、話したり書いたりすることにな

      る。

     その主な題材は①政治②性的関係③悪い風習④個人的な不条理⑤文学上の愚かさということ

      なのである」。           (斎藤大雄著『川柳入門はじめのはじめのまたはじめ』より引用)

 

 

3、作品

      川柳『さっぽろ』平成26年3月号より転載してみよう。

         少子化の重荷を詰めたランドセル  佐藤正文

         三月の海からもれてくる嗚咽       岩間啓子

           雪どけを待たずぽたぽたシーベルト     小原金吾

                    万華鏡くるり 政治家の反省       沼澤 閑

        これらの作品を見ると、強烈な風刺性を込めてはいないのに気がつく。それは、平和という社会

      の中で生かされているための、柔らかな批判精神なのかもしれない。もしも戦時下であったなら

      ば、おのずと別次元での視点となり、鶴彬のような反戦詩となり、国家への反逆詩となりえる。

         屍のゐないニュース映画で勇ましい 鶴 彬

         胎内の動きを知るころ骨がつき    鶴 彬

      現在では、時事川柳が風刺川柳の主流を占めているのかもしれない。しかし、時事川柳におい

      ても、希薄にならざるをえないのを感じる。

      風刺の根底に流れる精神は、庶民としての抵抗心であり、狼煙でなければならない。

      だが、現在においては、その精神は希薄となっている。