川柳の上達法 ㉒ 川柳の表現力

 

  1、リズム感

      僅か十七音という最短詩で表現するのであるから、いかに日本語の持つ意味を理解し、漢字・ひら

      がな・カタカナを駆使して組み立てるかが重要となる。五・七・五と決められたリズムで詠む詩文の

      ことを「韻文」という。逆に決まったリズムのない小説やエッセーなどは「散文」である。

      川柳とは決められたリズム感のある韻文であるから、音読した際に心地よい響きが求められる。

      目で読む川柳、耳で聞く川柳も大切にしたい。

      時実新子は「七・五・五にリズムなし、七・七・五にリズムあり」といっている。

           豆科の花はこぼれつづけるいくじなし

      この句は、上五が「豆科の花は」までの七音。中七は「こぼれつづける」で七音、下五が「いくじな

      し」で五音の十九音ですが、中七という柱がしっかりしているから、リズム感が整っている。例えば、

           豆科の花はこぼれてるいくじなし

      として、中五にしてみると、七・五・五の句となりリズム感が悪くなってしまう。上五は多少重くなって

      も構わないのだが、下六音とか下七音とか重くなったなら上に持ってくる。これもリズム感を整える

      コツである。

 

  2、散文から韻文へ

      どうしても上五から作句を始め、中七を考え、下五と結びつけて一句を完成させるために、説明型

      や解説型になりやすい嫌いが生じる。それは、散文調になり、韻文とは少し離れた表現となりやす

      い。例句によってその動きをひもといてみよう。

           晩酌があるから明日も生きられる

      酒好きにとっては当たり前のことである。晩酌・明日・生きられる・の言葉がくっつきすぎて、散文の

      域を抜け出ていないからである。

           晩酌があるさと明日も生きる汗

      晩酌のために、明日も一生懸命に働いて汗を流そう、との決意が見えてくる。少しは韻文に近づい

      てきた。

           晩酌があるさ明日も生きる欲    守の原句

      明日も(あすも)より、あしたも、と読ませた方が力強さが出てくる。そして、生きる欲、と表現するこ

      とにより、人間の生に対しての欲望の深さまでが描出される。さらには、二句一章として、晩酌があ

      るさ、明日も生きる欲、八・九音の句としても成り立ってくる。このように推敲することによって、散文

      から韻文へと変化させていくことが大切であり、それに伴っての表現力の奥の深さまでが加味され

      てくる。

 

  3、句の奥行き

      散文とは・語数や調子にとらわれずに自由に書かれ た、普通の文章。韻文とは・韻をふんだ、よい

      ひびきをもつ文章。一定の形式をもった詩。

      句の奥行きを求めていくことによって、一句は完成するのかもしれない。だが、韻文を極めることに

      よって、読者に直感的な感情の移入を妨げる嫌いが生じてくる。一句の底を深読みさせなければな

      らないし、作者と読者との理解力の差によって、分かりやすい句、分かりづらい句、とに評価が分け

      られる欠点も生じてくる。一句をどのように解釈するのか、双方にとっての、悩ましい問題点も抱え

      ている。

      句の表現力を高めることは重要ではあるが、特に雑詠(自由吟)の場合は、難解性をも包含した作

      品とならざるをえない。それは、個人の感性や言葉の組み立て方の差異であり、一概に否定する

      訳にはいかない。

      川柳の持っている定型の魅力と、それを変化させる技術力をも加味して、各人が川柳の深奥を探

      り続けるしかない。根底にあるのは、いかにリズム感を大切にし、自分の想いを吐き続けるかである。