川柳の上達法 ⑱ 下六

 

 

  1、下六 

 

      何故に下六は駄目なのであろうか。川柳人であるならば、下五は一番に気をつけて作句するのだ

      と思う。

 

      それは、一句が締まるか緩むかの要であり、一句の可否を決定する重要な言葉の選択が求められ

      るポイントだからである。

 

      どうして下六になるのか。問題点を列記してみよう。

 

       ① 名詞止めが多いため。

 

       ② 一句を纏めようとする意識が強くなるため。

 

       ③ 下六を解消するという言葉の選択が弱いため。

 

       ④ 中七に利用しようとする推敲の希薄さのため。

 

       ⑤ 説明を完結させようと考えすぎるため。

 

    このようなことが考えられるのだが、相対的には下五の一句に占める重要性を余り意識せずに作句

    しているように感じられる。

 

 

 

      それでは、川柳さっぽろ平成24年12月号「あかしや集」より抜粋してみよう。

 

           ① はまってるゲームが奪う人間力    間宮和代

 

       ② スカイツリーだいちふんばる孫誕生 飛登義次郎

 

       ③ 白蟻に食われてしまう復興金      高松時子

 

        ④ 瞳から星をこぼしていく出目金      梶原百華

 

        ⑤ 玉ねぎで泣かなくなった古女房     山本雪子

 

        ⑥ 終焉へ心静かに身辺整理        宮下榮歌

 

     さて、これらの作品は下六となっているので、下五に推敲することはできないのであろうか。例えば、

     言葉の整理や中七への転換によって、定型の作品とすることは可能なので、僕なりに原句を尊重

     しながら推敲してみたい。

 

       ① はまってる人間力を殺ぐ(削ぐ)ゲーム

 

       ② スカイツリーだいちふんばる孫うまれ

 

       ③ 白蟻が復興金を食う怖さ(食う乱れ)

 

       ④ 瞳から出目金だってこぼす星

 

         出目金が星をこぼしていく瞳(いる瞳)

 

        ⑤ 玉ねぎで泣かなくなった女房殿

 

        ⑥ 終焉へ身辺整理する心

 

   原句よりはリズム感がよくなり、作品が安定しないだろうか。定型の作品となると句姿がよくなり、読

   み上げても心地よい響きを醸し出す。雑詠の場合は、目で読む作品となるので、あまりリズム感を気

   にしないで作句するきらいがあるので、気をつける必要がある。

 

 

 

 

 

  2、下六の押し 

 

     「時実新子・川柳の学校より引用」

 

         ポケットの手を出しなさいお別れです

 

         累々と越えた男の一人と死ぬ

 

      右の二句の共通点は、五・七・六、つまり句尾が、六音字・・下六で終わっていることです。

 

      『別れ』と『お別れ』では、相手との絆の強さが違います。その強い絆の相手に、別れをきっぱり断

      言する必要性から生まれた六音字なのです。このような、想いを強めるための六音字を、下六の押

      しといいます。

 

      『一人と死ぬ』も、同じ手法の六音字です。『一人死ぬ』では、自分とともにの『と』が使えず、まったく

      別の句意となってしまいます。

 

      中七は厳守ですが、下五を、少々重い下六にすることも効果的です」。

 

     ☆ 新子のいう「下六の押し」は理解できるのだが、いかに効果的な下六の句にするかは、上五から

       中七までの言葉の組み立て方に注意を払うかが重要となる。一句のドラマ性の確立である。安

       易な舞台設定であっては、観客に感動を与えることはできない。

 

      川柳の一句で感動を与えることは、至難の技だと思っている。だが、一句の中にいかに演出効果

      を生み出すか、が作者としての喜びであり、苦しみなのではないだろうか。