川柳の上達法 ⑩題詠の作り方

 

  1・題詠(課題吟)の目標

      題詠とは、テーマや句材としてあらかじめ与えられた課題を契機とした作詠(課題吟)。川柳の基

    本的な竸吟方式としての題詠は、前句を契機とした前句附を歴史的に受け継ぐもの。雑詠に対する

    用語。課題詠とも。題そのものを読み込む場合と、課題を読み込まずに暗示だけにとどめる場合と

    がある。

      課題吟は句会や大会などで、他者との作品の競合の場で提出する。

 

           成績が気になるので、どうしても「入選」を意識して技巧に走った作品を生み出しがちとなる。それ

        が課題吟からは、文学的な価値の作品は生れにくい」と指摘されるゆえんでもある。

      しかし課題吟ではあっても、いかに「自分の想い」や「自分の姿」を投影して生み出すかによって、

    良い作品を残すことができる。「作品の優劣「や「良い成績を上げたい」にこだわりすぎずに、その課

    題を自分のことに置き換えて作句することが必要となる。しかし、作者がいかに自分のことに置き換

    えて作句したとしても、選者が必ずいるので、選者の選句力に委ねるしかない。例え没句になったと

    しても、選者を恨まずに自己満足するしかない。

 

  2・題詠(課題吟)の作句ポイント

     作句に当たって心がけることは、

   ①   課題を通して、作者自身の心(想い)を描くこと。

   ②   課題に対して、作品が純粋に即しているかどうかに拘ること。

   ③   課題を読み込むか、読み込まないか、を決めること。

     読み込みの場合は、課題の言葉そのものに寄りかかって、平坦で上っ面をなでた内容となりやすい。

   読み込まない場合は、課題の説明だけに終始する内容となりやすい。

     何よりも作者の心を作品に投入することを心がける。作品は頭で考えるより目(視点)であり、言葉より

   心(想い)で描出するものである。

        課題に密着しすぎた作品は、広がりがなく、面白味に欠けるきらいがあるし、かといって課題から離れ

   すぎると、課題吟の意味がなくなってしまう。課題に対していかに「付かず離れず」に作句するのかである。

 

   札幌川柳社11月句会 宿題「消す」 大橋百合子暹

      ①留守電を消す 沈黙の貌を消す  前抜き 浩一

      ②揉み消しに奔走してる蟻の群れ  前抜き 玲子

      ③削除キー未練心をポンと消す   前抜き 三猿

      ④財布は空で透明人間になった   人位  笑葉

      ⑤キリストの足跡を消す雪の白   地位  百華

      ⑥フルートの音が絶えゆく父の凍天 天位  倭文子

   の句は、消すを二度使用し、一字あけの句である。着想は良いと思う。「留守電を消す沈黙の顔の影」

   の句は、奔走とは、あちこち駆け回って世話や努力をすること。「揉み消しに奔走つづく蟻の群れ」

   の句は、削除、ポン、消す、が意味の重複となってはいないだろうか。「削除キー未練心をポンと押し」

   の句は、題を読み込まずに表現している。財布と透明人間との意外性によって、選者の心を打ったの

   か。

   の句は、何故にキリストでなければならないのか。人間の、善人の、悪人の・神様の、では。雪は白で

   はないのか。雪の闇、吹雪の絵、黒い雪、等では。

   の句は、五・七・七の句である。音がを削除すると詩情が消えるのか。「フルートに絶えゆく父の凍天よ」

    一句は言葉の選択によって大きく変化していく。言葉より心である、を基調とするならば、想いを無視

    した添削は不要となる。発表された作品の可否について、論を戦わせることはまずない。あくまでも勉

    強としての資料であり、課題吟を作るための叩き台である。

 

  3・題詠(課題吟)の飛躍

      誰もが課題に向き合って作句するのであるから、如何に発想(着想)を飛躍させ得るかが勝負の分

    かれ目となる。課題吟の場合は、竸吟として点数で競い合うのであるから、いかに課題に対して良い

    素材を見つけ出すかが重要となる。

      課題吟を作句する時には、第一着想となるべき素材は捨ててしまうか、もしくは、その素材をフィク

    ション化する必要がある。なかなか第一着想は捨てることが出来ないので、いかにその着想を事実か

    ら虚構に転換させてやれるかが必要となる。 

                      

    課題「笑う」 橋爪 まさのり暹。1月13日こなゆき新春句会。

        すり切れた絆の底を笑いあい

        人情が冷えた都会で笑む絆

        爆笑の中で小さくなる絆

        爆笑の渦に沈んでいく絆   守・十秀

    絆をどのようにして笑うのか。素材が悪かったのだろうか。少し変化を加えることによって、十秀に拾

    われたのかもしれない。

        笑ってる遺影ほとけになれたやら  守・没句

        笑ってる遺影ほとけになった過去  推敲句

        太陽の笑顔にんげん射抜かれる   守・没句

        愚鈍なるニンゲン太陽の笑顔    推敲句

    没句の2句は、素材が悪かったのであろう。いや、推敲が不足だったのが原因だと思われる。

 

  4・素材の差

     雑詠(自由吟)は心で生み出し、課題吟は頭で作り出す、と言われているのだが、課題吟であっても

   心が内在しなければ、単なるゲームの句となってしまう。いかに素材をうまく調理するかによって、課題

   吟といえども心に響く一句となっていく。

 

     平成2411月本社句会・宿題「器」岡崎守暹

        おいしさを子らの器にたんと盛る  幸泉・前抜

        かあさんの器は愛のてんこ盛り   綾子・十秀

        重箱の隅で匕首砥いでいる     えい子・五客

        父の器にみーんな入って出ていった 芙美香・天位

 

      本社句会では150句から40句の抜句数である。したがって入暹率は27%であり、約7割の作品が没

  句となるのであるから、素材を如何に大切にするかが求められるしたがって入暹率は27%であり、

  約7割の作品が没句となるのであるから、素材を如何に大切にするかが求められる。

 

  前抜の句は、同想の句が多くあった。第一着想としては誰もが考える素材で、新鮮味には欠けている。

  十秀の句も詠いつくされている素材ではあるが、てんこ盛り、の表現によって生かされた句である。

  五客の句は、重箱と匕首の対比が生かされており、なかなか出来ない発想力である。夫婦の葛藤か、

  会社人間同士の軋轢か、いろいろな場面が連想される。

  天位の句は、奇想天外な発想ではなく、家庭の一段面をすぱっと切り取った、分かりやすい句である。

  ただし、言葉の組み立て方が独創的で、胸を打つ句となっている。父の器と、入って出て行ったのフレ

  ーズが見事で、句箋を読んだ時にすぐに天位とした作品である

 

  5・選者の眼

          作者がいかに良いと思って作った句であっても、選者が共感や共鳴をしてくれなければ、日の目を見

      ることがなく消されてしまう。選者が有っての課題吟であるから、材料の新鮮さと、言葉の組み立て方の

    妙味、一句に流れる心がなければ、選者の眼に止まりはしない。

 

      課題吟とは技術力が求められ、ある意味においては、言葉の魔術師になる必要があるのかもしれない。

    だが、竸吟とは、句の練磨を兼ねた場であることを認識して、成績に余りにも拘らずに作句することが必

    要である。課題吟とは、発想力の養成と、表現力の練磨の場であるのだから。