川柳の上達法 ㉔ 川柳の想像力

 

  1、想像する

      想像とは、①おしはかること。②現実の知覚に与えられていない物事の心象(イメージ)を心に浮か

      べること。過去の経験を再生する場合と、過去の経験を組み合わせて新しい心像を作る場合とが

      ある。

     まさに一句を生み出す時に、川柳人の一人ひとりがこの作業を行っている。主には、過去の経験

     を再生して作句している場合が多いと思われる。経験に裏打ちされた想いがあるからこそ、一句を

     生み出すことが可能となる。

     だからこそ、川柳は経験を積んだ年齢の方が入りやすく、続ける可能性が高いといわれている。

     人生の経験を土台にして、さらなる経験値を積み上げていける可能性は、若者より強いのかもし

     れない。だが、そのためには、想像力を持続させ向上させるための努力が求められる。

     桑野晶子は、昭和43年(43歳)から川柳を始められた。そして十年後に句集「眉の位置」を発刊した。

        終着駅に夫婦茶碗が置いてある

        綿あめがゆれて乳房の匂いする

        いくさする鏡の中の眉の位置

        ハイボール花の柩と眠りたし

        一握りの髪の重さの地獄かな

    「ひとつの燃焼が音となり炎となり気化しようとしていたときの結晶体がこの句集であると思う。

     ~中略~。再び別の音で燃焼し、炎の海となって、きっと驚かしてくれることであろう」

                                                     (斎藤大雄・序より)

 

2、創造する

      創造とは、①新たに造ること。新しいものを造りはじめること。②神が宇宙を造ること。

      『今日の芸術』岡本太郎著(光文社文庫)より引用してみよう。「だから、創られた作品にふれて、

      自分自身の精神に無限のひろがりと豊かないろどりをもたせることは、りっぱな創造です。

      つまり、自分自身の人間形成、精神の確立です。自分自身をつくっているのです。すぐれた作品

      に身も魂もぶつけて、ほんとうに感動したならば、その瞬間から、あなたの見る世界は、色、形を

      変える。生活が生きがいとなり、今まで見ることのなかった、今まで知ることもなかった姿を発見

      するでしょう。そこですでに、あなたは、あなた自身を創造しているのです」

      斎藤大雄は、昭和二十六年(18歳)から川柳を始められた。

      「斎藤大雄の川柳と命刻」岡崎守編(平成二十一年六月発刊より)

         抱きしめる双手よ天へ地へ人に

         地の底の底から湧いて修羅

         天国も地獄もいかぬ初日の出

         崩れゆくいのちを抱いて原稿紙

         母さんがくれたいのちだ抱いて寝る

      僕は「あとがき」で「一人の偉大な男の生きざまと死にざまを実感し、なぜこれほどまでに川柳

      を愛することができたのかという想いの一端にふれていただきたいと思う。命刻とは、命を刻む

      ことであり、刻んだ命を残すことでもある」と書いた。

      各人の想像力や創造力には、差異があるのは当然なことである。しかし、人間として生まれ、

      人間として死んでいくのには差異はない。その生きざまを一句に託すことができたならば、川柳人

      としての冥利につきるのではないだろうか。人生史の詩として。

      個人の持っている想像力を駆使して、いかに自己の想いを十七音に託せるか、が大切なのだと

      思う。心の想いを一句に、それが日々を生き抜くための力となり、想像力の源泉となるのだと確

      信している。