川柳の上達法 ㉘ 川柳の視点力

 

  1、視点

       視点とは、①見る立場、観点。②目のつけどころ、着眼点。③絵画の遠近法で、視線と直角をなす

       地平線上の仮定の一点。

      川柳においても、一句を生み出すためには、視点の良さが求められる。自分を素直に見つめる目、

      客観視する目、日本を世界を見る目、四季の移ろいを見る目、家庭を社会を見る目、人間の喜怒

      哀楽を見る目。などなど、人生を歩み続けるためには、眠っている間を除いては、人間は常に両眼

      を使ってあらゆるものを見続けている。

      さて、川柳人にあっては、両眼をふるに活用する必要がある。正面から背面から、側面から上下か

      ら、多面的な視点で観察する必要がある。その視点の広がりが一句を生み出し、無限の可能性を

      秘めた十七音の世界を描き出させてくれる。

      時実新子は『川柳の学校』の中で、このように言っている。

     「日常の生活の中に、川柳の素材はあふれています。劇的な体験をしなければつくれないものでは

      ありません。適当に幸福で適当に不幸・・・これが川柳を生み出すいちばんいい土壌なのです。日

      常の暮らしの中で、目を深く広く届かせ、心にとまった素材をクローズアップさせます。好奇心を持

      つこと。常に自分との対話を忘れないこと。なによりも川柳が好きであること。そして、自然のすべ

      て、森羅万象を自分と重ね合わせて見る時、川柳をつくる目が生まれます」。まさにこのとおりで

      ある。川柳人の心に響く、目の活用の話である。

 

2、視点力の句

     どのような視点で切り取るか、が一句の価値を高めるか否かとなってくる。句には作者の魂が宿り、

     読者に感動を与えてくれる。だが、感動を与える句は簡単には生まれはしない。二人の作品を取

     り上げてみよう。  

       『斎藤大雄の川柳と命刻より』

         愛ひとついのちがひとつ やがて墓 斎藤大雄

         まん中に人間がいた猛吹雪

         生きる手と死ぬ手が固い夫婦の絵

         もう一ついのちが欲しい原稿紙

         生きて来た時間と遊ぶ鬼ごっこ

     生と死をいかに見つめるか、自分のものとするか、作家としても難しい問題である。一回は死ぬの

     だと理解はしていても、日常を生かされている人間としては、簡単には割り切れはしない。

     川柳の命題としては、究極には死の句に行き着くのであろうが、煩悩を抱いた人間にとっては、ぎ

     りぎりまでの苦悶の時ではないだろうか。

     川柳さっぽろ 『あかしや集』 平成20年より

        心静かに白髪結ぶ八十路の十指(1月号)桑野晶子

        目を閉じれば 凍蝶さんさん老いの眉(2月号)

        結んで展く指一本のかくれんぼ(3月号)

        夢一話齢の数を深くして(4月号)

        雪解けの庭につんつん新芽の鼓動(5月号)

     名吟家として全国に名を知られた晶子は平成20年5月号を最後にして作品は消えた。83歳で、

     大雄さんが亡くなる一月前である。まだまだ作品を見たかった者として、残念でならない。

     大正14年に東京で生まれて、昭和19年に渡道している。昭和43年から川柳の道を歩み、新人ば

     なれした斬新な句風を評価される。川柳作家として一世を風靡したのだが、病魔のために作句の

     道を絶たれてしまった。これらの五句は、老境を淡々とした詩人の目で見つめる、鮮やかな視点

     力を内包している。人間としての老いとは、病とは、考えさせられるのである。